家へ帰ってみると、お客様。お母さんも、もうかえって居られる。れいに依って、何か、にぎやかな笑い声。お母さんは、私と二人きりのときには、顔がどんなに笑っていても、声をたてない。けれども、お客様とお話しているときには、顔は、ちっとも笑ってなくて、声ばかり、かん高く笑っている。挨拶して、すぐ裏へまわり、井戸端で手を洗い、靴下脱いで、足を洗っていたら、さかなやさんが来て、お待ちどおさま、まいど、ありがとうと言って、大きなお魚《さかな》を一匹、井戸端へ置いていった。なんという、おさかなか、わからないけれど、鱗《うろこ》のこまかいところ、これは北海のものの感じがする。お魚を、お皿に移して、また手を洗っていたら、北海道の夏の臭いがした。おととしの夏休みに、北海道のお姉さんの家へ遊びに行ったときのことを思い出す。苫小牧《とまこまい》のお姉さんの家は、海岸に近いゆえか、始終お魚の臭いがしていた。お姉さんが、あのお家のがらんと広いお台所で、夕方ひとり、白い女らしい手で、上手にお魚をお料理していた様子も、はっきり浮かぶ。私は、あのとき、なぜかお姉さんに甘えたくて、たまらなく焦《こ》がれて、でもお姉さんには、あのころ、もう年《とし》ちゃんも生まれていて、お姉さんは、私のものではなかったのだから、それを思えば、ヒュウと冷いすきま風が感じられて、どうしても、姉さんの細い肩に抱きつくことができなくて、死ぬほど寂しい気持で、じっと、あのほの暗いお台所の隅に立ったまま、気の遠くなるほどお姉さんの白くやさしく動く指先を見つめていたことも、思い出される。過ぎ去ったことは、みんな懐かしい。肉親って、不思議なもの。他人ならば、遠く離れるとしだいに淡く、忘れてゆくものなのに、肉親は、なおさら、懐かしい美しいところばかり思い出されるのだから。
回到家一看,有客人。妈妈也已经回来了。和往常一样,因为什么事客厅传来热闹的笑声。妈妈这个人,和我单独在一起时,不管脸上笑成什么样,都不会笑出声来。但是当和客人谈话的时候,即使脸上毫无笑容,也会发高声尖笑。我打过招呼后立刻绕到后面,在井边洗手,脱下袜子洗脚。这时候,鱼店老板来了,嘴里说着“让您久等啦,多蒙关照,非常感谢”,把一条大鱼放在井边上就回去了。虽然不知道这鱼叫什么,但看那鱼鳞细密,觉得它像是产自北海道。把鱼放到盘子里,重新洗手时,闻到一股北海道夏天的腥味。想起了前年暑假时去北海道姐姐家玩时的事情。姐姐家在苫小牧,可能是因为靠近海岸吧,一直有股鱼腥味。眼前清晰地浮现起黄昏时分姐姐一个人待在她家那空荡荡的厨房里,用白皙的且具有女性特征的手在处理鱼。那个时候,不知为什么我很想对着姐姐撒娇,非常地渴望,但是那会儿姐姐已经生下小年,姐姐不再是我的了,想到这里就觉得冷风嗖嗖吹过,无论如何都无法再紧紧搂住姐姐纤细的肩膀了,心里寂寞得要死,就那样一动不动站在厨房昏暗的角落里,恍恍惚惚盯着姐姐那白皙的手指优雅地动来动去。这些也都记得很清楚。所有的过往都令人怀念。骨肉至亲真是不可思议。换作他人,远远分开之后也就淡了,慢慢就会忘掉,但是骨肉至亲不同,让人记着的尽是那些难忘的美好往事。
注:
苫小牧,日本北海道西南部的城市,临太平洋。地名源自阿伊努族的语言,意为“沼泽后面的河流”。
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