女生徒(二十四)

女生徒(二十四)

00:00
03:40

 このお家に帰る田舎道は、毎日毎日、あんまり見なれているので、どんな静かな田舎だか、わからなくなってしまった。ただ、木、道、畠、それだけなのだから。きょうは、ひとつ、よそからはじめてこの田舎にやって来た人の真似をして見よう。私は、ま、神田あたりの下駄屋さんのお嬢さんで、生まれてはじめて郊外の土を踏むのだ。すると、この田舎は、いったいどんなに見えるだろう。すばらしい思いつき。可哀想な思いつき。私は、あらたまった顔つきになって、わざと、大袈裟にきょろきょろしてみる。小さい並木路を下るときには、振り仰いで新緑の枝々を眺め、まあ、と小さい叫びを挙《あ》げてみて、土橋を渡るときには、しばらく小川をのぞいて、水鏡に顔をうつして、ワンワンと、犬の真似して吠《ほ》えてみたり、遠くの畠を見るときは、目を小さくして、うっとりした風《ふう》をして、いいわねえ、と呟《つぶや》いて溜息。神社では、また一休み。神社の森の中は、暗いので、あわてて立ち上って、おお、こわこわ、と言い肩を小さく窄《すぼ》めて、そそくさ森を通り抜け、森のそとの明るさに、わざと驚いたようなふうをして、いろいろ新しく新しく、と心掛けて田舎の道を、凝《こ》って歩いているうちに、なんだか、たまらなく淋しくなって来た。とうとう道傍の草原に、ペタリと坐ってしまった。草の上に坐ったら、つい今しがたまでの浮き浮きした気持が、コトンと音たてて消えて、ぎゅっとまじめになってしまった。そうして、このごろの自分を、静かに、ゆっくり思ってみた。なぜ、このごろの自分が、いけないのか。どうして、こんなに不安なのだろう。いつでも、何かにおびえている。この間も、誰かに言われた。「あなたは、だんだん俗っぽくなるのね」

 そうかも知れない。私は、たしかに、いけなくなった。くだらなくなった。いけない、いけない。弱い、弱い。だしぬけに、大きな声が、ワッと出そうになった。ちぇっ、そんな叫び声あげたくらいで、自分の弱虫を、ごまかそうたって、だめだぞ。もっとどうにかなれ。私は、恋をしているのかも知れない。青草原に仰向《あおむ》けに寝ころがった。

      每一天都要走这条回家的乡村小路,已经太熟悉了,以至于都忘记这乡下是多么宁静了。树木、道路和田野,感受到的就只有这些而已。今天打算改变一下,假装自己是从别的地方第一次跑到这乡间来的人。好吧,我是神田附近木屐店家的一个小姐,有生以来第一次踏上郊外的土地。如此一来,这个乡村看起来究竟会是怎样的呢?真是个很棒的想法。可怜的想法。我换上一副郑重其事的表情,故意夸张地东张西望。从小林荫道中走过时,仰头望着满枝的新绿,“哇喔”,小声地喊了一下,走过土桥时,盯着小河看了一会儿,让脸倒映在水面上,“汪汪”学着狗的样子叫几声,望着远处的田野时,眼睛眯起来做陶醉状,“真好啊”,低声嘟囔着叹一口气。在神社里又歇了歇。神社周围的森林里面很暗,于是我急忙站起身来,说声“哦哦,可怕,可怕”,缩着肩穿过森林,来到森林外的光明之中,故意做出因这片光明而惊讶的样子,各种新的尝试,这样万分用心地走过乡间小路,不知怎的忍不住寂寞起来。最后一屁股坐在路边的草地上。在青草上坐下之后,刚才那些异常兴奋的情绪咣当一声消失不见,倏地认真起来。于是我静下来慢慢地想了想最近的自己。为什么这一阵子自己这么不对头呢?为什么会如此不安呢?总是在害怕什么。前几天还有人说我:“你渐渐变俗气了呢。”

      可能吧。我确实变坏了,变庸俗了。糟糕啊,糟糕。懦弱啊,懦弱。冷不丁地想要大喊一声“哇”。哼,喊上那么一声就想把自己的软弱掩饰过去呀,没门儿。必须得另想办法。可能我是恋爱了吧。仰面朝天躺在绿草地上。


注:

神田,日本东京千代田区东北部一带,域内多大学、书店和出版社。

以上内容来自专辑
用户评论

    还没有评论,快来发表第一个评论!