むかしむかし、京の都に、源博雅(みなもとのひろまさ)という、とても笛の上手な人がいました。
その頃、都では集団の泥棒がいて、人々は大変困っていました。
ある晩の事、博雅(ひろまさ)の屋敷にも集団の泥棒が押し入りました。
泥棒たちは手に手に、弓や、なぎなたを持っています。
「みんな、すぐに隠れるんだ! 見つかっても決して抵抗はするな!」
博雅の言葉に、召し使いたちはみんな思い思いのところへ逃げたり隠れたりしました。
博雅も縁の下に隠れて、ジッと息を潜めました。
やがて泥棒たちは、品物やお金を取って出て行きました。
博雅は縁の下からはい出すと、
「行ってしまったらしい。みんな、出てきても大丈夫だ」
と、召し使いたちに声をかけました。
さいわいみんなは無事で、怪我人もいません。
「なにより無事で良かった。・・・しかし、よく取って行ったものだ。壊れたなべのふたまでないではないか」
博雅があきれながら座敷の中を調べてみると、さいわい置き戸棚が一つ残されていました。
「どうせ、中の物は持って行ってしまったのだろう」
それでも開けてみると、中には博雅が愛用している笛が一本入っていました。
「これはありがたい。良い物を残してくれた」
博雅は笛を取ってそこに座ると、静かに笛を吹き始めました。
ひゅー、ひゅるるりりるー
美しい笛の音色は、高く、低く、暗い外へ流れていきました。
博雅の家から引き上げた泥棒たちは、夜ふけの都を歩いていましたが、
「いい笛の音だなあ」
と、先頭にいた泥棒の親分が、ふと足を止めました。
「本当に、いい音色だ」
「うん、いい音色だ」
みんな耳をすませて、ウットリとして聞き入りました。
そして聞いているうちに、泥棒たちは自分たちのしたことが恥ずかしくなってきたのです。
みんな博雅の素晴らしい笛の音色を聞いて、心が清らかになったのです。
「おい、みんな引きかえそう。取って来た物を返そうではないか」
親分の言葉に、子分たちも頷きました。
さて、それからしばらくすると、あの泥棒たちが引き返してきたので、博雅は驚いて笛を吹くのを止めました。
そして泥棒の親分は、驚く博雅の前に両手をついて言いました。
「あなたの笛の音を聞いているうちに、泥棒が恥ずかしくなりました。取った物はお返しします。これからは心を入れ替えて、真面目に働きます。ですからどうか、お許し下さい」
手下たちも、そろって頭を下げました。
そして盗んだ荷物を元の場所に置くと、泥棒たちはどこかへ行ってしまいました。
おしまい
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