(天声人語)睡眠不足を乗り切る
2018年7月5日 木曜日
先週来、体調がいま一つさえない。深夜や明け方にサッカー中継を見るせいだ。日(ひ)中(なか)、抗(こう)しがたい睡(すい)魔(ま)に襲(おそ)われ、疲れが尾(お)を引く。にわか「夜(よ)更(ふ)かし族」向けの処方箋(せん)はないものだろうか▼
「2日間夜更かしをしても3日目で規則正しい生活に戻せば、体内時計はある程度修正されます」。労働と睡眠の研究で知られる大(おお)原(はら)記念労働科学研究所の佐(さ)々(さ)木(き)司(つかさ)・上(じょう)席(せき)主任研究員は指摘する。水曜を「ノー残業デー」とする会社が多いのもこの理由による。月、火に残業しても水曜に早く帰れば大(おお)崩(くずれ)れを防げるという▼
体内時計の狂(くる)いを小さくするカギは「アンカースリープ」だ。船が海にアンカー(いかり)を沈(しず)めるように、夜のうちにわずかでも眠ることで、リズムの乱れを最小限にする。具体的には、午前0時から4時の間に最低2時間の仮(か)眠(みん)をはさむのが大切という▼
なるほど、どれも実践的な教えである。病院や工場、小売りなど夜勤や宿(しゅく)直(ちょく)の伴う職場の「眠りの知恵」には学ぶところが多い▼
とはいえ眠り方は古来、人それぞれだ。極端な例で言えば、ダビンチは4時間おきに15分横になる独自の睡眠法を編み出した。対照的なのはアインシュタイン。毎夜10時間以上眠り、一(いっ)説(せつ)にはかの相対性理論もベッドでひらめいたと伝えられる▼
眠りも目覚めも、調べれば調べるほど奥(おく)が深い。日本が敗(ばい)退(たい)したとはいえ、W杯はこれからが佳(か)境(きょう)だ。眠りのアンカーをしっかり下ろし、熱戦を楽しみたい。
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