女生徒(三十)

女生徒(三十)

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      少し浮き浮きして台所へ行き、お米をといでいるうちに、また悲しくなってしまった。せんの小金井の家が懐かしい。胸が焼けるほど恋しい。あの、いいお家には、お父さんもいらしったし、お姉さんもいた。お母さんだって、若かった。私が学校から帰って来ると、お母さんと、お姉さんと、何か面白そうに台所か、茶の間で話をしている。おやつを貰《もら》って、ひとしきり二人に甘えたり、お姉さんに喧嘩ふっかけたり、それからきまって叱られて、外へ飛び出して遠くへ遠くへ自転車乗り。夕方には帰って来て、それから楽しく御飯だ。本当に楽しかった。自分を見詰めたり、不潔にぎくしゃくすることも無く、ただ、甘えて居ればよかったのだ。なんという大きい特権を私は享受していたことだろう。しかも平気で。心配もなく、寂しさもなく、苦しみもなかった。お父さんは、立派なよいお父さんだった。お姉さんは、優しく、私は、いつもお姉さんにぶらさがってばかりいた。けれども、すこしずつ大きくなるにつれて、だいいち私が自身いやらしくなって、私の特権はいつの間にか消失して、あかはだか、醜い醜い。ちっとも、ひとに甘えることができなくなって、考えこんでばかりいて、くるしいことばかり多くなった。お姉さんは、お嫁にいってしまったし、お父さんは、もういない。たったお母さんと私だけになってしまった。お母さんもお淋しいことばかりなのだろう。こないだもお母さんは、「もうこれからさきは、生きる楽しみがなくなってしまった。あなたを見たって、私は、ほんとうは、あまり楽しみを感じない。ゆるしてお呉れ。幸福も、お父さんがいらっしゃらなければ、来ないほうがよい」とおっしゃった。蚊が出て来ると、ふとお父さんを思い出し、ほどきものをすると、お父さんを思い出し、爪を切るときにもお父さんを思い出し、お茶がおいしいときにも、きっとお父さんを思い出すそうである。私が、どんなにお母さんの気持をいたわって、話し相手になってあげても、やっぱりお父さんとは違うのだ。夫婦愛というものは、この世の中で一ばん強いもので、肉親の愛よりも、尊いものにちがいない。生意気なこと考えたので、ひとりで顔があかくなって来て、私は、濡《ぬ》れた手で髪をかきあげる。しゅっしゅっとお米をとぎながら、私は、お母さんが可愛く、いじらしくなって、大事にしようと、しんから思う。こんなウェーヴかけた髪なんか、さっそく解きほぐしてしまって、そうして髪の毛をもっと長く伸ばそう。お母さんは、せんから、私の髪の短いのを厭がっていらしたから、うんと伸ばして、きちんと結って見せたら、よろこぶだろう。けれども、そんなことまでして、お母さんを、いたわるのも厭だな。いやらしい。考えてみると、このごろの、私のいらいらは、ずいぶんお母さんと関係がある。お母さんの気持に、ぴったり添ったいい娘でありたいし、それだからとて、へんに御機嫌とるのもいやなのだ。だまっていても、お母さん、私の気持をちゃんとわかって安心していらしったら、一番いいのだ。私は、どんなに、わがままでも、決して世間の物笑いになるようなことはしないのだし、つらくても、淋しくっても、だいじのところは、きちんと守って、そうしてお母さんと、この家とを、愛して愛して、愛しているのだから、お母さんも、私を絶対に信じて、ぼんやりのんきにしていらしったら、それでいいのだ。私は、きっと立派にやる。身を粉《こ》にしてつとめる。それがいまの私にとっても、一ばん大きいよろこびなんだし、生きる道だと思っているのに、お母さんたら、ちっとも私を信頼しないで、まだまだ、子供あつかいにしている。私が子供っぽいこと言うと、お母さんはよろこんで、こないだも、私が、ばからしい、わざとウクレレ持ち出して、ポンポンやってはしゃいで見せたら、お母さんは、しんから嬉しそうにして。

      

      有些飘飘然了,走到厨房里,淘米的时候又悲伤起来。想念以前在小金井的那个家。心中燃起了强烈的思念。在那个美好的家里有父亲在,姐姐也在。妈妈那时也很年轻。每当我从学校回来后,都会和妈妈姐姐在厨房或是茶室聊些有趣的事。我会讨一些点心吃,和她们两人腻歪上一阵儿,要不就找碴儿和姐姐吵架,然后一定会被责骂,便跑出去骑着自行车去很远很远的地方。傍晚的时候回来,接着就很愉快地吃晚饭。那时候真是快乐。不会紧盯着自己看,也不会龌龊地搞些有的没的,只是撒娇装小孩子就可以了。那时候我是享受着何等重大的特权啊。而且还觉得理所当然。无忧无虑,不会寂寞,也不会痛苦。爸爸是一个优秀的好父亲。姐姐很温柔,我总是粘着姐姐,依赖着她。但是,随着逐渐长大,首先是我自己变得令人讨厌起来,我的特权不知不觉之间已经消失,赤裸裸地,丑陋不堪。再也不能对任何人撒娇,总是闷头沉思苦想,多出好些痛苦的事。姐姐嫁人去了,爸爸已经不在。只剩下妈妈和我。妈妈一直也是非常寂寞的吧。前几天,妈妈说:“从今往后再也没有任何活着的乐趣了。说真心话,即便是看着你,我也感觉不到什么快乐。请你原谅。既然你爸爸已经走了,那幸福还是不要来找我了。”蚊子飞出来的时候,妈妈会突然想起爸爸,拆洗衣物的时候会想起爸爸,剪指甲的时候也会想起爸爸,甚至是喝到好喝的茶的时候,看那样子也一定是想起了爸爸。不管我怎么安慰妈妈,怎么陪她聊天,果然还是代替不了爸爸。夫妻之情是这个世界上最强大的东西,肯定比骨肉亲情还要珍贵。考虑这些大人的事儿,一个人羞红了脸,于是我用濡湿的手向上拢了拢头发。唰唰地淘着大米,打心眼里想着我要多疼爱妈妈,同情她,保护她。像这种烫成波浪状的头发,还是赶紧弄蓬松开比较好,再把头发养长一些吧。妈妈以前就不喜欢我短头发的样子,如果头发长得长长的,整整齐齐地扎起来,那她看了一定会高兴的吧。不过,竟然要做那种事情去取悦妈妈,也让人很不爽。讨厌。这一阵子我这么焦虑,想来和妈妈有很大关系。我是想做一个遂妈妈心意的好女儿,但是我也不愿因为这个就很奇怪地去迎合她。即使什么都没说,但是妈妈,只要你能真正理解我的心情、能够安下心来,就比什么都强。我不管怎么任性,都绝不会去做那些被世人耻笑的事情。不管怎么难受、怎么寂寞,在大事上都会好好地守规矩。我一直都很爱妈妈,很爱这个家,非常非常爱。所以,如果妈妈也能够绝对地信任我、任我迷糊且无忧无虑地生活,那就足够了。我一定会做得很出色。拼命努力且不辞辛苦。即使是对现在的我来说,这也是最大的乐事,是我深以为然的生存之道,但是妈妈却一点儿都不相信我,依然把我当成孩子看待。我说一些孩子气的话时妈妈会很高兴,最近也是,我简直是个傻瓜,故意把尤克里里拿出来,弹得砰砰作响欢闹给妈妈看,结果妈妈好像由衷地感到高兴。


注:

小金井,东京都中部的一个城市,位于武藏野台地,多学校和住宅区。

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