女生徒(十八)

女生徒(十八)

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 もう、お茶の水。プラットフォムに降り立ったら、なんだかすべて、けろりとしていた。いま過ぎたことを、いそいで思いかえしたく努めたけれど、いっこうに思い浮かばない。あの、つづきを考えようと、あせったけれど、何も思うことがない。からっぽだ。その時、時には、ずいぶんと自分の気持を打ったものもあったようだし、くるしい恥ずかしいこともあったはずなのに、過ぎてしまえば、何もなかったのと全く同じだ。いま、という瞬間は、面白い。いま、いま、いま、と指でおさえているうちにも、いま、は遠くへ飛び去って、あたらしい「いま」が来ている。ブリッジの階段をコトコト昇りながら、ナンジャラホイと思った。ばかばかしい。私は、少し幸福すぎるのかも知れない。

 

 けさの小杉先生は綺麗。私の風呂敷みたいに綺麗。美しい青色の似合う先生。胸の真紅のカーネーションも目立つ。「つくる」ということが、無かったら、もっともっとこの先生すきなのだけれど。あまりにポオズをつけすぎる。どこか、無理がある。あれじゃあ疲れることだろう。性格も、どこか難解なところがある。わからないところをたくさん持っている。暗い性質なのに、無理に明るく見せようとしているところも見える。しかし、なんといっても魅《ひ》かれる女のひとだ。学校の先生なんてさせて置くの惜しい気がする。お教室では、まえほど人気が無くなったけれど、私は、私ひとりは、まえと同様に魅《ひ》かれている。山中、湖畔の古城に住んでいる令嬢、そんな感じがある。厭に、ほめてしまったものだ。小杉先生のお話は、どうして、いつもこんなに固いのだろう。頭がわるいのじゃないかしら。悲しくなっちゃう。さっきから、愛国心について永々《ながなが》と説いて聞かせているのだけれど、そんなこと、わかりきっているじゃないか。どんな人にだって、自分の生まれたところを愛する気持はあるのに。つまらない。机に頬杖ついて、ぼんやり窓のそとを眺める。風の強いゆえか、雲が綺麗だ。お庭の隅に、薔薇の花が四つ咲いている。黄色が一つ、白が二つ、ピンクが一つ。ぽかんと花を眺めながら、人間も、本当によいところがある、と思った。花の美しさを見つけたのは、人間だし、花を愛するのも人間だもの。

      已经到御茶水了。一到站台上之后,不知为何一切都消失得干干净净。赶紧拼命回想刚刚发生的事情,却什么都想不起来。哎,还是接着往下想吧。心里急躁,但又没什么可想的了。一片空白。彼时其实也发生过一些深深打动自己的事情,也有过痛苦和羞耻,但是那个时刻一旦过去,就跟什么都没发生过一样,没有任何差别。“现在”这个瞬间很是奇妙。现在,现在,现在,就这样正用手指摁着呢,“现在”却早已远远飞去,新的“现在”已经来到。一边嗒嗒地攀上天桥的台阶,一边在想“到底是咋回事儿呢”。真是愚蠢。或许我是有点幸福过头了。

      今天早晨的小杉老师很美,就像我的包袱巾那样的美。美丽的蓝色很适合老师,胸前火红的康乃馨也让人眼前一亮。如果她没有“造作”,我肯定会更加喜欢这位老师的。她太装模作样了。总觉得别扭。那样也是很累的吧。她的性格中也有某些难懂的地方。很多地方都让人看不透。本来性格阴暗,却硬要故作明朗状给人看。这一点显而易见。但是不管怎么说,她都是一位迷人的女性。被安排在学校老师这样的位置上,真是可惜。虽然,她在课堂上不如之前那么受欢迎了,但我个人却和之前一样被她吸引着,觉得她就像一位住在山中湖畔古城里的千金小姐。讨厌,不由得赞美起她来。为什么小杉老师讲的内容总是这么生硬刻板呢?不会是因为脑子不好吧?真是可悲。从刚才就一直在絮絮叨叨大谈爱国精神给我们听,那些不都是明摆着的事实吗?不管是什么人,其实都是爱着生养自己的地方的。无聊。我用手托着腮帮支在桌子上,漠然望着窗外。可能是风大的缘故吧,云很好看。院子的角落里开着四朵玫瑰花。一朵黄色的,两朵白色的,一朵粉色的。我呆望着花儿的时候想:做人其实还是有好处的。发现花之美的是人,爱花的也是人。


注:

御茶水,此处指御茶水站。御茶水是日本东京文京区汤岛至千代田区神田一带的区域。御茶水女子大学的原校址即在此。

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