猫は、不妊手術や去勢手術を受けると、食欲が増すと聞いたことがある。
今までトトは、ごはんにまったく興味がなく、要求することもなければ、がっついて食べることもなかった。ごはんを用意するとチローッと食べて半分以上残し、また気が向いたときにチローッと食べる。かならず残して完食ということがない。だから、トトは不妊手術後もそんなに変わらないんじゃないのかなあと思っていた。
大間違いであった。ご多分にもれずトトも俄然食いしん坊になった。台所に立つと、ごはんが用意されると思い、「なんとなーく歩いてたら台所にきちゃった」みたいなふりをしてやってきて、私に見える位置に寝転がる。寝転がって両手で頭を抱えるようなかわいいポーズをする。
「トト、ごはんまだだよ」と伝えて、ヒト用ごはんの支度をはじめると、今度は脚に体をなすりつけてくる。ようやくごはんの時間になって、薬を飲ませ、猫用缶詰を開けると、めったに鳴かないトトが私をまっすぐに見上げて「ウニャー」とそれはちいさな声で鳴く。はいはい、ごはんできました、とごはん皿を所定のごはん処に持っていく。トトは首を振りながらついてきて、食べはじめる(トトはうれしいとき、興奮しているとき、なぜかいやいやをするみたいに首を振る)。
トトは好き嫌いがはげしく、食欲倍増の不妊手術後も、気に入らないものはぜったい一口たりとも食べないのだが、お気に入りの缶詰を出すと、一、二分ほどでぺろりとたいらげてしまう。そして空の皿を前に「もうない……」という顔つきで、こちらをちろりと見るのである。もうないって言ったってそれはあなたが今食べたんでしょうよ、と言うと、うにゃーんとちいさく鳴く。
術後の経過をみてもらうため病院にいくと、「あら」と先生。「あらトトちゃん、なんか大きくなったわねえ」。体重を量ると、三キロなかったトトが、四キロを少し超えている。すっかり病院の苦手なトトはまた、だれもいない壁に向かってちいさく「シャー」とやっている。シャー、どころじゃないよ、そんなに太っていたのか。
家に戻り、寝そべっているトトを見ると、たしかに腹まわりがドテーッとしている。テーブルや椅子の縁に顔をもたせかけていると、顔の下にぷるんと輪ができている。トトは顔がちいさいから、顔ばかり見ていると大きくなったようには見えないのである。そういえば、小顔の女子は太ってもなかなか気づかれないんだよな。私も小顔になりたいと幾度思ったことか。そんなことを思いつつ、膨張しているトトを見る。
トトの持病にとって肥満は大敵である。しかも、激しい運動はしてはいけないから、運動で体重をキープするということもむずかしい。よっしゃ。私たちはごはん減量を決意した。今まで食べていた量から三割減らすことにした。猫缶を買うときは、つねにカロリーもチェックするようになった。トトの好きな銘柄はカロリーが低いので助かった。なかには一缶で一二〇キロカロリーなんてものもある。
ごはんの量が少なくなったことに気づいているのか、いないのか、トトは好きなごはんだと前にも増してぺろりとたいらげ、「もうない……」をくり返す。そしてついに、ごはんを食べていないふりまでするようになったのである。私がごはんをあげてから出かけたあと、夫が帰ってくる。するとトトはすっ飛んでいって「うにゃーん」とまとわりつき、誘導するようにごはん処に向かうのである。食べていないと思った夫がごはんをあげると、まるでずーっとおあずけをくらっていたかのようにがっついて食べる。このようなことが幾度か続き、入れ違いの日、私たちは「ごはんはすでにあげたのでだまされないで」「トトはまだごはんを食べていません」等々と伝え合うようになった。
トトも芸達者になったものである。
吾日三省吾身,这是沙发
Seki菇菇 回复 @源先森的梦想蓝图: 沙发🛋️给!