猫、手術を受ける
不妊手術を受けたトトは、エリザベスカラーをつけてうちに帰ってきた。
エリザベスカラー! ペットを飼ったことのない私でも知っている、顔をぐるりととりまく丸いもの! トトのつけてもらったカラーは、透明な地にピンクで絵が描いてあるかわいらしいものである。
トト、お帰りお帰り、と家に連れて帰る。トトは病院に一泊させられたことにも、エリザベスカラーをつけられたことにも、まったく怒る様子がない。ただ受け入れて、静かにしている。トトは本当になんでも受け入れて、許す。もしかしてこの「受け入れる」というのはトトだけではなくて、猫の特性なのだろうか。
この日、がんばったトトに夫が刺身を買ってきた。トトにははじめての刺身である。どれだけ感激するだろうかと食べる様子を見守ったが、慌てず騒がず淡々と、ほかのごはんとおんなじように食べてはいる。でも真っ先に刺身だけ食べたところを見るとおいしかったのだろう。
トトの運動神経が鈍いことは以前も書いた。エリザベスカラーをつけて二日目も、三日目になっても、トトはカラーに慣れない。カラーの縁をどこかにぶつけたり、まっすぐ歩けなかったりする。夜、うつらうつらしていると、遠くから、カコーン、カコーン、という音がだんだん近づいてくる。最初はなんだろうと不気味に思ったが、それはトトがカラーをあちこちにぶつけながら、のっそりのっそりと、こちらにやってくる音なのだった。
術後の経過をみてもらうため、また病院にいく。この日にカラーはとれるはずだった。けれどトトは手術あとをなめてしまったらしく、うおなかがちょっと膿んでいる。カラーが短かったのね、と先生は、トトのカラーの外側に透明のガムテープをはりつけ、ひとまわり大きくした。カラーはとれなかったのである。術後のくすりと、膿んだおなかのためのレメディを先生は処方してくれた。ふひとまわり大きくなったカラーをつけて、トト帰宅。またしても不憫で、お刺身を数切れあげた。トトは大きくなったカラーも受け入れ、静かにお刺身をまずたいらげ、それからいつものごはんを食べている。カコーン、カコーンも継続。
ひとまわり大きくなったカラーで、こんどはおなかをなめることはできまいと思ったのだが、トトは幾度もなめようとして、そのたび、カラーの縁がおなかにあたる。膿んだおなかがなかなかなおらない。なおらないどころか、もっとひどくなっているようにすら見える。
私と夫は悩んだ末、トトのおなかを保護する猫服を作ることにした。ああでもない、こうでもないと試行錯誤の上、細かい作業の得意な夫が型紙を作る。古いハンカチを型紙に合わせて切り、あちこち縫いつなぐ。金太郎の腹掛けのようなものができあがった。
これをトトのおなかを隠すように着せてみるのだが、結ぶようにした肩の部分が、するりと外れてしまう。猫ってなで肩だもんなあと妙に感心するが、感心している場合ではない。幾度かかたちを変えて作ってみた。が、どれもだめ。一、二歳児が着るできそこないのタンクトップもどきが幾枚もできたが、どれも使いものにならず。
私はもう気が気ではなく、翌日ペットショップにいき、小型犬の服を物色した。しかしトトが着てくれそうなものはない。ネットでさがすと、なんと「術後服」というものが売られているではないか。なんだ、早くさがすべきだった。ネットってすごい。私は早速それを注文した。
その術後服が届くより前に、動物病院の診察があった。あいかわらず黄色くただれているトトのおなかを見て、どうしてもどうしてもなめようとしてしまうのね、と先生は言い、ぜったいになめることができないよう、おなかにガーゼをあて、白いあみあみのネットを、四本かつこうの脚を出す恰好ですっぽりとトトに着せた。カラーがようやくとれたのである。
カラー同様、このあみあみネットもトトはいやがることなく、着せられるままになっていた。カラーよりはこちらのほうがまだ楽にも見える。そしてトトには悪いが、あみあみネットを着ている姿は、お中元やお歳暮でもらうハムみたいで、ちょっとかわいい。
その少しあとに術後服は届いた。小花柄のかわいいものだったけれど、あみあみネットがあるから出番がなくなってしまった。ネットのおかげでトトのおなかは急激によくなり、数日後にはネットもとれた。最初は赤く、そのうち黄色く膿んでしまったおなかも、きれいなピンク色に戻った。そのきれいなピンクも、やがてふさふさの毛が隠していって、私たちは心から安堵したのである。
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