[朗読]夏の音、夏の匂い

[朗読]夏の音、夏の匂い

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親に「たまには帰って来て顔でも見せろ」と言われたので久々に帰省することにした。
仕事を始めてから休みの日は疲れて寝てばかり。
たまには親孝行もいいかと思ったのだ。
自分で作らなくても美味い食事が出てくる…それも魅力的だった。

早朝の電車に乗り込み、実家の最寄り駅までぼんやり景色を眺める。
徐々に減っていく背の高いビル群。
地面を覆っていたアスファルトの面積が減り植物が増えていく。
夏の日差しにも負けない濃い緑を眺めながらの移動は、思っていたより悪くなかった。

実家(じっか)はあの頃(ごろ)と変わらずそこにあった。
何かとやかましい両親に迎えられ、仕事で疲れた体を休めるために横(よこ)になる。
風鈴(ふうりん)の音色(ねいろ)と蚊取り線香(かとりせんこう)の匂い。
どちらも今の自分の家とは無縁(むえん)のもの。
まどろみながらどこか懐かしさに包まれる(つつまれる)。

線香の香りと仏具の音で目を覚ますと、親戚が仏壇参りに来ていた。
世間話や近況報告をしながらスイカを頬張る。
キンキンに冷えた大きなスイカはやたら美味かった。

延々(えんえん)続く両親と親戚の会話に居心地(いごこち)の悪さを感じて海へ出かける。
繰り返される波の音。
懐かしい潮の香り。
手頃(てごろ)な日影(ひかげ)を見付けて腰をおろし、途中で買ったアイスを頬張った。
夏の暑さを気持ちいいと思ったのはいつ以来だろう。
数年ぶりに夏が来た事を実感した気がした。

そのまま近所の祭りへ。
昔と変わらない賑やかさに思わず笑みがこぼれた。
蝉しぐれと屋台の匂い。
子ども達が親からもらった小遣いで何を買うか真剣に悩んでいる。
それを横目(よこめ)で眺めながら、何年ぶりか分からないラムネを飲んだ。
閉じ込められたビー玉が涼しげな音をたてて揺れる。

夕闇と共に人が増え、ざわめきが大きくなる。
和楽器(わがっき)の奏でる(かなでる)祭囃子(まつりばやし)。
神輿(みこし)を担ぐ(かつぐ)声(こえ)。
汗とビールと日本酒(にほんしゅ)の匂い。
大人達が豪快(ごうかい)に、そして陽気(ようき)に酔っている。

人酔いを覚まそうと遠回りした帰り道。
微かに聞こえる虫の声。
祭りの残り香(のこりか)をさらうように風が吹き、少し汗ばんだ体に心地よかった。
遠くで花火が上がる音を聞きながら歩く。

ふとした瞬間に音や匂いから実感する夏。
子供の頃は当たり前だったのに、大人になって日常から縁遠く(えんどおく)なったもの。
「また来年も来られるといいな」そう呟いて夜空に咲く大輪の花を見上げた。

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