第4章 名家名篇\第4章84放浪記

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烈々とした空の下には、掘り返したつちが口を開けて、雷のように遠くではトロッコ流れる音が聞こえている。昼食時になると、蟻の塔のように材木を組み渡した暗い行動口から、泡のように湧いて出る鉱夫達を待って、幼い私はあっちこっち扇子を売りに歩いた。鉱夫達の汗は水ではなくて、もう黒い飴のようであった。今、自分達が掘り返した石炭土の上にゴロリと横になると、バクバクまるで金魚のように空気を吸ってよく眠った。まるでゴリラの群れのようだった。

そうしてこの静かな景色の中に動いているものと云えば、棟を流れて行く昔風なモッコである。昼食が終わるとあっちからもカチュウシャの唄が流れて来ている。やがて夕顔の花のようなカンテラ灯が、薄い光で地を這って行くと、けたたましいサイレンの音だ。国を出るときゃ玉の肌・・・？何でもない歌声ではあるけれど、もうもうとした石炭土野山を見ていると何だか子供心にも切ないものがあった。

扇子が売れなくなると、私は一つ一銭のアンパンを売り歩くようになった。炭坑まで小一里の道程を、よく休み休み私はアンパンをつまみ食して行ったものだ。父はその頃、商売上の事から坑夫と喧嘩をして頭をグルグル手拭いで巻いて宿にくすぼっていた。母は多賀神社のそばでバナナの露店を開いていた。無数に駅からなだれてくる者は、坑夫の群れである。一山いくらのバナナは割りによく売れて行った。そして大勢の女や男達と一緒に、私も馬の銅像に祈願をこめた。いい事がありますように。