なぜ、彼女は私の前から姿を消したのか。
私は、京王線の下り電車に飛び乗った。
彼女にまつわる 何らかの手掛かりがあると信じて、
高幡不動尊は何度も肩を並べて歩いた町だ。
土方歳三の鞘の先端には、透かし模様が刻まれている。
これは、猪の目透かしという猪(いのしし)の目を象ったもの。
かつて彼女はそれを見て、小さな愛の印が刻まれていると呟いた。
山門に続く石段を、彼女との日々を思い、私は上る。
階下を見下ろすと、
五重塔の向こうに、武蔵野の風景が広がっていた。
動物の鳴き声に混ざって聞こえて来る 愛おしい音
それは 子供の笑い声。
マンホールを見て笑う子供に 目が留まった。
平仮名の文字は私に、
幼いごろに息子のことを思い出させた。
たったばしの夕焼けを見て思う、
いったい、自分の人生は、
どこで間違ってしまったのかと。
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