四月の魔女の部屋-1
文:星空めてお
朗读:坂本真绫
仅供学习用
見えない犬がやってきました。
床を爪でかく音や息をする気配はすれども、姿はありません。
ホウキ草よりもばさばさの毛並み。目ヤニのいやな匂いもします。
見当をつけて抱きあげると、激しく噛みついてきたあげく逃げてしまいます。しかたなくエイプリルは犬を放っておくことにしました。
ある嵐の夜、犬はおびえて扉の外に向かって吠え続けました。何者か判りませんが、誰かがいます。そもそも四月の一日以外には、誰も部屋に近づくことは出来ないはずです。少なくともそれが生者であれば。
またある大雪の夜、暖炉脇に寝そべっていた犬が跳ね起きて、扉に向かって火のように吠えました。かすかな雪音だけを残して何者かは去っていきました。
そしてちょうど一年が経った、ある明け方。
こつ、こつ、と杖の先で玄関の石を叩く音がします。
犬はうっすらどその姿を現して、扉の前に静かに立ちました。
エイプリルは犬に尋ねました。
あなたの大切な人を許してもよいのですか?
犬は小さく嚼きながら扉に鼻先を押しつけます。
彼女は扉を薄くあけて、ちょっぴり残念そうに犬を見送りました。
魔女エイプリルが使い魔と暮らした、ただ一度の例外です。
売れない画家がやってきました。
画家は髪をかきむしり、ヒステリックに叫びました。
「誰も見たことのない絵を描きたい。人々が心を打たれ、畏怖し、生涯記憶に留めるような壮大な絵を」
誰も見たことのない絵。
彼の志す絵はエイプリルにもわかりません。
そこで尋ねます。その絵を彩るために、どんな絵筆が必要なのですか。
「希有なる絵筆が必要だ!鉄のごとく揺るぎなく、炎のように柔軟な。筆先には真実の絵の具がふくまれている」
どれだけの画布があれば、こと足りるのですか。
「広大な!むろん広いだけではない。それは信念と償いの糸で編まれている。稲妻のように筆先が闪くたび海の果てまでも拡がっていく!」
そこまで熱弁して急に弱気になった画家は、狼狽してエイプリルの膝にすがりました。
「赦してくれ。私を罰してくれ。そんなものあるわけがない。誇大妄想の戲言だ。望むことすらあってはならない」
エイブリルは彼を慰めながら言いました。
たとえ叶わずとも、願ってはならない望みなどこの世にあるでしょうか。
画家は目を潤ませて肯き、彼女の手の掌にうやうやしく接吻を残して去りました。
生涯をかけて我が理想の絵を描きあげてみせる一そう呟きながら。
吸血姫メイがやってきて赤い翼を休めました。
「御同類ね」とメイは言いました。彼女も死ねない運命の異端の娘でした。
ふたりは中庭を彩る草花や、好きなお茶のこと、たわいないお喋りをして一日を過ごしました。
「あなたに呪いをかけた神様もいつかは滅びることでしょう」
最後にそう言い残してメイは飛び去っていきました。
いいね(≧∇≦)b 素晴らしい
坂本真绫yyds